目次
ハリス副大統領が米国大統領選挙に向けて初めて経済政策を発表しましたが、これが議論の的になってます。
- 何百万人ものアメリカ人の医療費負担をなくす
- 食料品や食品の価格つり上げの禁止
- 処方薬の費用上限設定
- 初めて住宅を購入する人に25,000ドルの補助金を支給
- 生後1年間、子供1人につき6,000ドルの児童税額控除を提供
- 法人税を21%から28%に増税
結論から言うと、バラ撒き&食料品価格を政府が抑制するという政策で、米国では社会主義、共産主義と批判もされているようです。
問題点はバラ撒きと価格統制です。
インフレとは即ち物価上昇、物価上昇はつまり貴金属の価格も上昇要因ということです。
ではなぜこれらの政策のなにがインフレ要因になるのか?見ていきましょう。
1,政府によるバラ撒きはインフレ要因。
リック・スコット上院議員はハリス氏の経済政策に対して以下のように反応。
副大統領のハリス氏が連邦政府の価格統制を提案する予定です。彼女はビジネスを立ち上げたことがなく、利益と損失を理解しておらず、給料を支払ったこともなければ、消費者市場で競争したこともありません。これはすべてのアメリカ人にとって恐ろしいことです。彼女は、「価格の吊り上げ」を禁止する必要があると主張していますが、これはすでに広く違法であり、高価格の原因ではありません。バイデン・ハリス政権が引き起こした急激な価格上昇は「価格の吊り上げ」ではなく、インフレです。
~インフレをコントロールするには、連邦政府が無計画に持っていないお金を使うのをやめることが必要です。
Tomorrow, VP Harris, a person who has never built a business, doesn’t understand profit and loss, has never met payrolls, and who has never competed in a consumer market, is going to propose federal price controls. That should terrify every American. She claims that Congress…
— Rick Scott (@SenRickScott) August 15, 2024
インフレが起きているのは企業がインフレに便乗して値上げしているからではなく、政府の無計画な財政支出や貨幣供給の増加がインフレの主要な原因であると指摘しています。
まずは米国のM2マネー(市場に流通しているお金の量)を見ると、パンデミックショック対策として大量の給付金バラ撒きを行った結果、急激M2マネーが増加しているのが分かります。
M2の増加は必ずしもインフレにつながるとは限りませんが、一般的には物価上昇の圧力となる可能性が高いです。
人々の購買力が増加すると、人々はより多くのモノやサービスを求めるようになり、全体的な需要が増加します。
しかし、 供給は生産能力や資源の制約を受けるため、短期的に急激に増やすことは困難で、これに対応する為に物価を上げざるを得なくなります。
パンデミック後のインフレ率を見れば明らかです。
M2マネーが急上昇した後、少しタイムラグ後にインフレが急激に上昇。
QT(量的引き締め)を行った結果、2023年頃からM2マネーもやや低下しインフレ率は3%代まで下落しています。
そして、政府がバラ撒くための財源は財源は国債発行です。M2マネーが増加したタイミングとほぼ同時に債務も急激に増加しているのが分かります。
米国政府債務残高を見るとQT(量的引き締め)を開始した、2022年辺りは一時的に債務の増加が止まっているものの、M2マネーと同時にまた上昇し始めています。
インフレに影響が出始めるのはタイムラグがあるので、今後このままM2マネーが増加していけば、再度インフレ率が高くなる可能性が”現時点で”あるということです。
これに加えてハリス氏は政策で更にバラ撒きを促す政策をしているのは、更に政府債務を積み上げて、インフレは再度加速していく可能性があるということです。
2,既に米国は債務が増大している
当然ですが、政府がバラ撒きする財源は増税か、さらなる国債発行つまり借金です。
しかし以前からお伝えしている通り、既に米国債務はGDP比120%を超え、第2次世界大戦を上回っています。
そして、インフレを抑制する為にFRBが高金利を維持しているので利払い費は雪だるま式に増加。
これも何度も当ブログでお伝えしているのですが、バンク・オブ・アメリカの新しい試算によれば、年内に2%利下げが行われた場合すら、利払い費は1.2兆ドル程度になると予測しています。
(以前は1.5%引き下げでも利払い費は1.2兆ドルでした)
政府債務が増加する→利払い費も増加する→利払い費を払う為に、政府債務が増加する→利払い費が…
と言ったように負のスパイラルに陥ります。というか陥ってます。
さらに現時点で米国民の全所得税の76%が”米国債の利払い費1兆1400億ドルに支払われている”という報道も出ています。
”米国債務の利払い費だけ”で所得税の76%です。公共福祉サービスや防衛費などはまた別にかかるということです。
イーロン・マスクもこれに反応し先日「米国は破産しつつある」とXにポストしました。
3,政府の値上げ禁止はインフレが加速要因、過去の失敗事例とは?
あなたが経営者のなったと考えてください。
インフレによって原材料、電気代などの光熱費、人件費が高騰しています。このままでは赤字で店が潰れ従業員を守ることができなくなります。
ではどうするか?簡単な話、商品の価格に転嫁するしかありません。
しかし、政府が値上げ禁止すれば、経営者は損失を受け入れなければいけません。経営すればするほど赤字に陥るという地獄の罰ゲームです。
では経営者はどうするか?商品を棚に出すのを出し渋ります。
営業するほど赤字がでる、もしくは大して売上が上げられないのであれば、インフレが落ち着くまで商品を出すのを控え始めます。
店に商品を出さずに違法だと分かりながら闇市場に売り払った方が、利益がでるなら誰だってそうします。
そして、正規の店頭には商品がなくなるので、人々は闇市から商品を買うようになり、結局のところインフレは加速していくということです。
では、政府が商品を出し渋る経営者を更に厳しく取り締まればいいのでは?っと疑問が浮かびます。
ただ、実際に価格統制→商品を出し渋る経営者を逮捕して回った政府があります。それがハイパーインフレを起こしたジンバブエです。
ハイパーインフレが発生する前、ジンバブエ政府はインフレ対策として政府が価格統制し、それに従わない経営者を逮捕するという強行的な手段に出ました。
ジンバブエ政府はハイパーインフレが起きる直前インフレ抑制策として、「厳格な価格統制」を実施。
— Silver hand (@Anthony6355) August 17, 2024
値上げや商品を出し渋る経営者を逮捕して回った。
インフレは一時的に抑制されたが、値下がりした商品に客が殺到し、店頭から商品は姿を消した。
ハイパーインフレの人類学より https://t.co/o0p3pFi4CQ pic.twitter.com/biTy1PUfg8
その結果、一時的に値下がりしたものの、今度は商品に人々が殺到し商品が棚から消え、再度インフレが加速しハイパーインフレのキッカケの1つになったというオチです。
またジンバブエ以外でも、政府による価格統制が失敗に終わった事例は数多くあります。
1. アメリカの第二次世界大戦時の価格統制
第二次世界大戦中、アメリカでは戦争の影響で物資が不足し、インフレが進行しました。政府は価格統制を導入して物価の上昇を抑えようとしましたが、これにより供給不足が悪化しました。価格が固定されると、企業は利益を上げるために生産を減少させ、結果的に市場での物資が不足し、ブラックマーケットが拡大。
2. チリのアジェンデ政権(1970年代)
チリのサルバドール・アジェンデ政権は、社会主義政策の一環として価格統制を導入しました。政府は物価を抑えるために価格上限を設定しましたが、これにより商品の供給が減少し、経済の混乱が生じました。価格統制は市場の歪みを引き起こし、長期的にはインフレや経済の不安定性を悪化。
3. ロシアの90年代初頭の価格統制
ソビエト連邦崩壊後のロシアでは、経済移行期において価格統制が試みられました。政府はインフレを抑制するために価格を固定しましたが、これにより供給が減少し、結果として物資の不足が深刻化しました。市場メカニズムの働きを無視した政策は、経済的な混乱と長期的なインフレを引き起こした。
4. アルゼンチンの価格統制(2010年代)
アルゼンチンでは、インフレ対策として価格統制が導入されましたが、これにより商品の供給が減少し、暗黒市場が拡大しました。価格統制が施行されると、企業は利益が上がらないため、生産を縮小し、結果的に経済全体の混乱を招いた。
結局のところ、政府が需要と供給を強引に操作すれば、市場メカニズムが歪み、無駄に混乱させるだけに終わることがほとんどです。
4,ではトランプ氏の経済政策はどうなのか?
では対抗馬のトランプ氏はどうなのか?ですが、現在の経済政策を見ると、ハリス氏よりはマシなもののやはりインフレ要因となりえる経済政策です。
- ・15%法人所得税を減税
- ・厳格な移民制限を推進し、国内賃金と雇用の向上を目指す
- ・中国に対して新たに60%から100%の関税を課す。
- ・財務長官にJPモルガンCEOジェイミー・ダイモン氏起用検討(後に否定)
- ・石油とガスの国内生産を増やすことでインフレを抑える計画
- ・FRBに大統領選前の利下げを行わないよう求めた
- ・パウエル議長は任期まで務めてもらう「彼が正しいことをしていると思った場合には」
- ・米国内での仮想通貨の発展を推進し、他国が主導権を握らないようにする
- ・トランプ氏指名の副大統領候補JDバンス氏はドル切り下げ宣言?
以前から言っていたように、表面的にみると関税、減税でインフレ的な経済政策ではあります。
ただ、石油、ガスを掘りまくってエネルギー価格を下げ、インフレ率を下げるという点ではトランプ氏の方がまだインフレ率低下にはなりそうです。
(実現できるかどうかは別にして)
【まとめ】結局、誰が大統領になろうと貴金属は上がると思われる
というわけで結局のところ誰が大統領になろうと、インフレは加速していくと思われます。
紛争によって貴金属の価格が上昇してもちっとも嬉しくないように、政府の失策によって貴金属の価格が上がってもあまりうれしくはないですが、結局大きな流れには逆らえません。
もし今後、大恐慌レベルの金融危機が発生すれば一時的にはインフレが抑えられ、貴金属の価格が下がる可能性はあります。
ただ、過去の金融危機を振り返ると、一時的に下がっても結局は貴金属の価格は上昇しています。
→過去の金融危機で金、銀も大暴落した?S&P500と下落率を比較した結果・・・
誰が大統領になるのか?で多少インフレの速度に違いはあれど、結局は上がっていくだろうというのが結論です。
さて、世界の中央銀行が史上最速のペースで金を購入しているのは、ただの気まぐれなのでしょうか?
https://Twitter.com/Barchart/status/1825724719368196252
→ロバート・キヨサキ「トランプが再選で金、銀、ビットコインは上昇する」は実現可能か?
→【金銀はオワコン?】トランプ 「ビットコインは金の市場価値を超える」発言の理由を考察。
→金価格2,500ドルで史上最高値!S&P500超えのパフォーマンス等 9つの金銀関連ニュース【8月第3週】
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