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貴金属アナリストであるJan Nieuwenhuijs氏 @JanGold
の情報によると中国人民銀行(PBoC)は公式発表ではゴールド買いを中断しているが、実は自国の通貨を支える資産として金の保有量を増やしているとのこと。
記事によれば2024年9月だけで中国人民銀行は、約60トンの金をロンドン金市場で購入しているようです。
公式の発表ですと、中国は5月までは18ヶ月連続で金を大量に購入していましたが、5月から金増加が止まり、現在も表向きには購入停止が続いている状態です。
→中国は5月の金購入を停止!ゴールドの価格上昇の根本的な理由と今後の価格の予測。
しかし、”秘密裏”に購入しているならなぜ、Jan氏は中国が密かに購入しているのを見抜けたのか?そもそもなぜ中国は密かに購入しているのか?
1,2022年からIMFとWGCで中央銀行の金購入量に乖離がある
まず世界の中央銀行がどの程度の量の金を購入しているのか?2つのデータが主に参照されます。
それがIMF(国際通貨基金)が示す各国中央銀行からの「公式報告」に基づいて金購入量。
もう1つがWGC(世界金協会)の推定データです。WGCは市場取引や貿易データを基に、各世界の中央銀行の金購入量を推定しています。
そして、2022年半ば以降、WGC(世界金協会)と、IMF(国際通貨基金)が報告した金の購入量が大幅に乖離しています。
※ オレンジIMF 青 WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)
IMFの数値よりも、実際の金取引に近い数字である、WGCの方が大幅に上回っています。
WGCの推定購入量は、市場での金の流通や輸出入など他のデータをもとに、中央銀行が購入した金の総量を推測するため、IMFには報告されていない金の購入も含まれます。
一方でIMFの金購入データは中央銀行が公式に”報告したデータ”に基づいています。
つまり、各国の”中央銀行がIMFに報告した”金の購入量のみが反映されるため、すべての購入が含まれるわけではありません。
各国政府や中央銀行がIMFに報告する義務はありますが、その報告は必ずしも法的な義務ではなく、各国の自主的な提供によります。
そして、民間が購入した金に関しては報告する義務はありません。
IMFとWGCとでこれだけの乖離があるということは、各中央銀行は密かに購入している可能性があるということです。
2,中国が密かに60トンの金を購入している根拠は?
上海黄金取引所(SGE)とは中国国内の金取引において最大の市場ですが、近年は国際的な投資家や商業銀行の参加が増え、金価格にも影響力を持ちつつあります。
LBMA(ロンドン貴金属市場協会)などよりは規模は小さいものの、中国の金需要の増加や国際化が進む中で、その規模は年々拡大しています。
@JanGold の分析によると中国人民銀行はこのSGEを通じて購入するのではなく、ロンドンで地金銀行(金を取り扱う商業銀行)を通じて購入しているとしています。
地金銀行が金の輸送や保険の手配を担当し、その過程で関税手続きも行うため、正式な輸出入記録されます。
つまり、WGCのような貿易統計には反映されます。
一方で中央銀行が直接購入しているわけではないので、IMFに報告する義務はありません。
つまり、表面的データ的には中国政府が購入したのではなく、民間銀行が購入したということになります。
なぜ、密かに購入しているとJan氏は見抜いたのか?以下のグラフはWGCによる、中国の金輸出入量(縦棒グラフ オレンジ、黄色)とSGEプレミアム(青グラフ)です。
https://www.moneymetals.com/news/2024/11/26/
SGEプレミアムとは、中国の金価格とロンドンやニューヨークなどの国際市場の金価格差です。
青グラフが上に伸びれば、西側金価格よりも中国国内の方が金価格が高い=民間需要が強い
青グラフが下に向けば、中国金価格は西側よりも安い=民間需要が弱い
このように予測できます。
2024年の8月辺りまでは、西側価格よりも中国の方が金価格が高い状態でした。それほど、中国の民間需要がかなり高かったということです。
しかし、現在はSGEのプレミアムがマイナス域に達してます。つまり、中国の民間需要は減少傾向であることを示しています。
(緑の○で囲われているところ)
そして、黄色とオレンジの金の輸出入量を見てみましょう。
SGEプレミアム(青のグラフ)が高くなると、輸入量も上昇傾向で8月後半まではSGEプレミアムが下がると共に、輸入量も急減しています。
しかし、9月はSGEプレミアムがマイナス(民間需要が少ない)にも関わらず、総金輸入量は95トンに達しています。
民間需要が強い時に金を大量に輸入するのは、辻褄があいますがわざわざ減少している時に大量に購入しています。
3,なぜロンドンから購入していると分かるのか?
そして、この金をどこから購入しているのか?ですが、このグラフはロンドンから中国への金輸出された量のデータです。
上の黄色のグラフは中国中央銀行が報告した金の購入量です。
そして、下に伸びる青グラフは”英国から中国への金輸出”された金量です。
中国中央銀行は金の購入を公式には報告していないにも関わらず、ロンドンから大量に金が中国に輸出しているのが分かります。
つまり、中国中央銀行は表向きには買っていないとしていますが、60トンもの金が中国に輸出されているということです。
中国国内の需要が低いにも関わらずです。民間で需要がないなら一体、この大量の金はどこにいったのでしょうか?
4,ロンドンLBMAの基準は400オンスバーだが、中国民間市場では扱われない。
そして、Jan氏によると英国からの金輸出はほとんどが、ロンドン金市場からの400オンス(約12.4キログラム)のバー形式ということです。
これはロンドン金市場協会(LBMA)の「Good Delivery List(適格品リスト)」のPDFです。
https://cdn.lbma.org.uk/downloads/LBMA-AR-Seminar-2011_GDL-Primer.pdf
ロンドン金市場では、金の「Good Delivery(適格品)」として認められる大型バーの標準サイズが約400トロイオンスであることが記載されています。
この規格が世界中の市場で受け入れられており、特にロンドン市場では輸出や輸入の際にこのバーが標準として使われているということです。
400トロイオンスバーは、通常、中央銀行、政府、投資ファンド、大規模なトレーダーによって取引されますが一般向けではありません。
中国側の主に民間市場を扱うSGEでも、400オンスもの大型バー取引はあまり行われません。
考えてみれば12キロもの巨大な金バーは個人や民間で取り扱うには、金額的にも物理的にも大きすぎます。
国内の民間市場でこれを加工・再販するとその分コストも高くつきます。
それほど大きな金バーよりも、民間市場では1キロバーが好まれるということです。売るにしても、加工するにしても12キロもの大きい金バーは扱い難すぎます。
つまりここまでまとめると、以下のようになります。
1. IMFとWGCのデータ乖離
2022年以降、両者のデータに大幅な乖離が発生しており、WGCの推計がIMFの報告よりも大きい。
2. 中国は国内需要が減少しているのに、金を輸入している
2024年9月、国内需要が減少している中で中国は約95トンの金を輸入した。
3. ロンドンからの中国に60トンの金が輸出されている
ロンドン金市場(LBMA)の輸出データと中国の輸入データが一致しており、特に9月には約60トンが輸出されている。
4. ロンドン金市場での標準金バーは約400トロイオンス
ロンドン金市場での標準金バーは約400トロイオンス(12.4kg)
LBMAの「Good Delivery List」によると、これは世界的に広く流通する規格。
一方、中国国内の民間需要では主に1kgの金バーが取引され、400オンスバーは民間市場でほとんど扱われない。
Jan氏の中国が密かに金を購入しているという推測はかなり妥当に見えます。
5,なぜ、中国は密かに購入するのか?
恐らく2つの理由があります。
1、金価格の上昇を避ける為。
知っての通り、金は最高値を更新し続けており、世界第2の経済国である中国が金を買いまくっていると認知されれば、市場は更に金に殺到します。
金は今年だけでも30%も値上がりしてます。
6月に「18ヶ月続いた中国の金購入が止まった」と報道された時、金価格は一度大きく下落しています。
→中国6月の金輸入66%減少はデマ?実は5月も金を買っていた。14の金,銀関連ニュース【7月第4週】
しかし、急落した後中国中央銀行は公式には金の購入を停止を継続したままですが、金価格は上昇し続けています。
逆に言えばもし中国も公式に金を買い続けていることを公表していた場合、金価格は更に高くなってしまい、金購入コストが高くなっていた可能性があります。
2、人民元高を防ぐ為。
これは推測ですが、過剰な人民元高を防ぎ輸出競争力を維持する意図も考えられます。
金の購入が中国が人民元をより多くの資産で裏付ける意図があると見なされる場合、市場で人民元の価値が上昇することが予測されます。
特に現在はほとんどの国の通貨が対ドルで下落しています。中国が大量に金を購入している場合、人民元高になる可能性があります。
その結果、中国の輸出品が高くなり、競争力が一時的に低下する可能性があります。
日本では通貨安が良い、通貨高が良いと議論になることがありますが、重要なのは生産能力です。
他国に対して安価で優れた商品がより多く輸出できる場合、通貨安の方が有利に働きます。
実際、中国貿易黒字は年1兆ドル(約150兆円)に迫る勢いです。
中国の輸出と輸入の差額は、今年に入ってからのペースで拡大が続けば、通年でほぼ1兆ドル(約154兆円)に達するとみられる。
先週発表されたデータによると、1月から10月までの10カ月間の物品貿易黒字は7850億ドルに及んだ。同時期としては過去最高で、前年同期から約16%増加している。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-11/SMS0S4T1UM0W00
実際2015年に中国は人民元の対ドル基準値を約2%引き下げました。
当時、人民元高が中国の輸出を圧迫しており、2015年7月の輸出額は前年同月比で8.3%減少してているような状況です。
このような状況に対処するため、人民元の切り下げが行われたと考えられます。つまり、中国からすると通貨安を望んでいるとも見て取れます。
また、現時点でトランプ大統領は中国に関税を課すと宣言していますので、なるべく人民元高になることは控えたいでしょう。
40%と言ったり10%と言ったり実際、どの程度の関税になるかは不明ですが、関税がかかればそれだけ輸出量が減少します。
それに加えて人民元高になれば更に輸出量減少になる可能性があるので、中国側としてはなるべく人民元高になる要素は排除したいでしょう。
「しかし、人民元が安くなるなら金の人民元価格が高くなり、結局、金は多く買えないのでは?」と思うかもしれません。
ただ、中国は行き場のない米ドル資産を大量に保有しています。上記の貿易黒字も米ドル資産ですし、米国債保有率は日本に次ぐ保有量です。
以下のグラフは米国債を売却(赤)し、代わりに金を購入(白)していることを示しています。
米国が債務を増加しインフレが進む場合、米国債を保有し続けていても米ドルの購買力が低下し、米国債の実質的な価値が目減りしていきます。
世界で最も安全資産で金利まで得られる米国債ですが、大量に保有していても価値が目減りするのであれば金利が得られないが、インフレに強い金に変えた方が資産は守れるというわけです。
【結論】今後、金が上昇しし続けるか?は米国債務次第
中国が大量に購入している点は金にとって強気材料です。
とはいえ、結局「なぜ中国が金を大量に買っているか?」というと、米国の財政赤字が急激に増加して改善される見込みがないからです。
→ゴールドが最高値を更新し続ける”本当の理由”とは?今後も上昇する可能性は高いのか?
トランプ大統領になり、イーロン・マスク氏が2兆ドルの支出削減など意気込んでいますが、まだどの程度実現可能か?は不可解です。
今後金が上昇し続けるか?は中国がどうのこうのよりも、米国が財政赤字をどのように対処するか?によります。
36兆ドルの債務、1兆ドルを超える利払い費、インフレ懸念、景気後退懸念など複合的に見ると、恐らく手遅れのように見えます。
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