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現在貴金属コミュニティでも少し話題になっているのが、中国がサウジアラビアで米国建て債券を発行しました。
このドル建て中国債券の利回りが米国債券利回りとほぼ同等という話です。
債券の利回りが同等と言うことは、米債券と中国債券が近い価格で取引されている=米国と中国の信用が同じくらいでは?と言うことです。
そして、中国が米債券と同等の利回りで債券を発行できるということは、部分的にではありますが、中国がFRBに変わってドルの流通をコントロールできる可能性があるということです。
ちなみにこの推測をしている一人がキャスリーン・タイソン氏です。(あくまでも推測です)
先週サウジアラビアで調達された中国の20億ドルの債券(20倍の需要超過で、利回りはわずか2ベーシスポイントのプレミアム)が、新しい世界秩序を示唆している可能性について推測しています。
この新しい秩序では、グローバルサウス(発展途上国)が、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、ニューヨーク連邦準備銀行、ユーロ債、そして従来の主要銀行を無視し、中国から米ドルや必要な流動性を得られるようになるかもしれないということです。
記事の著者の米ドルと米国債市場、そしてその仕組みに対する理解は完全ではありませんが、提示されたポイントは非常に強力です。
習近平国家主席は、世界に新しい「マーシャルプラン」を提示し、グローバルな発展と成長を資金提供しながら、米ドル建ての債務を縮小し、危機や不安定性を回避できる可能性を持っています。
中国は大規模な不動産バブルと債務を危機を引き起こすことなく管理可能なレベルに縮小しました。
そして、これらのサウジアラビア発行の米ドル建て債券はサウジで保管されているため、米国の制裁の影響を受けません。
彼女はFRBの一部であるニューヨーク連邦準備銀行でシステムリスク研究グループの創設メンバーです。
https://www.pacemaker.global/about
後にロンドンでEuroclearやSWIFTの監督に関与した実績もあります。
Euroclearは国際的な証券決済機関でクリアリングおよび、証券の保管、世界中の投資家、銀行、証券会社、ファンドマネージャーなどが利用する決済システムです。
SWIFTは言うまでもなく、ほぼ全世界の金融機関で利用されている、送金プラットフォームを提供します。
キャスリーン・タイソン氏は世界で最も金融システム、債券市場を理解している方ということです。
1,中国がサウジアラビアで米ドル建て債券を20億ドル(約3,000億円)発行し、20倍の需要(強い需要がある)
表面的には大したニュースではありません。
中国はサウジアラビアで20億ドル分の米ドル建て国債を発行したというだけです。
つまり、投資家たちは中国政府に米ドルを貸し、その返済を約束したということです。これが債券です。
日本でもサラッと報道されてますが
中国がサウジで国債発行、最大3000億円 米国揺さぶり
https://www.nikkei.com/nkd/company/us/MSCI/news/?DisplayType=1&ng=DGXZQOGM053AY005112024000000
重要なのは需要です。
20億ドル分に対して申し込み金額は総額397億3000万ドル。つまり、発行金額の19.9倍に達しています。
これは通常の米ドル建て国債に比べて圧倒的に多い需要です。
通常、米国債のオークションでは過剰申込率は2倍から3倍程度ですが、今回は中国のドル建て債務に非常に強い市場の関心があるということです。
2,債券金利が米国債金利とほぼ同等(米国債と同等の価値)
2つ目の興味深い点は、債券の金利が米国債の金利と非常に近いことです(わずか1~3ベーシスポイント高い、つまり0.01~0.03%だけ高い)
金利が同等=債券価格も同等ということです。
これは中国が米ドルで米国政府と、ほぼ同じ金利でお金を借りることができることを意味しています。
参考までに、最高の信用格付け(AAA)を持つ国々は、米ドル建て債券を発行する際には、米国債よりも通常10~20ベーシスポイント高い金利です。
このようなことができる国は他にありません。
3,サウジアラビアで債券が発行された意味とは?
通常、米ドル建ての国債はニューヨーク、ロンドン、香港など、世界的な金融センターで発行されます。
しかし、サウジアラビアで米ドル建て債券が発行されるというのは異例であり、これは単なる債券発行の手段を超えた意味を持ちます。
サウジアラビアは世界最大の石油輸出国であり、ドル建ての石油取引(ペトロダラー)の中心的な役割を果たしています。
これにより、サウジアラビアは多くの米ドル準備金(石油取引で得たドル)を保有しています。
しかしドルをたくさん持っていても、インフレで購買力は減っていきますし、米国債を買うくらいしか使い道がありません。
→サウジアラビアが160トンの金を密かに購入か?BRICS通貨に参加する?
しかし、ドル建て中国債券が需要があるということは、米国債とは別の選択肢が出来たということです。
サウジアラビアのような国々がドルを米国債に再投資する代わりに、中国のドル建て国債に再投資することができ、米国債と競合することを意味します。
米国は引き続きドルを印刷しますが、中国がそれらのドルの行き先を管理できるようになるということです。
このドル流動性の管理に関与する可能性が高まると、これは米国主導の金融システムからの一部独立を意味します。
つまり、ドルを破壊せず(脱ドル)にドルを一部コントロールする可能性があるということです。
ドルは世界の基軸通貨として、多くの国々が国際的な取引に利用されますが、米国の経済、政治的都合に合わせてドルの供給量が増減や凍結されます。
トランプ大統領に関しても、脱ドル化の国々に100%の輸入関税と脅しをかけています。
トランプ氏、脱ドル化の国々に100%の輸入関税賦課へ-返り咲きなら
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-09-08/SJH1J9T1UM0W00
※個人的には別の意図の可能性も考えてますが、それはここでは置いときます
→トランプ氏「脱ドル化で関税で制裁」5つの思惑とは?トリフィンのジレンマで米ドルは終了なのか?
通貨は中立であるべきにも関わらず、米国の都合で供給が管理されるのが露呈したので、BRICSなど非米側は脱ドルを少しずつ推し進めているわけです。
とはいっても今まで数十年取引にドルが利用され、経済はドルに強く依存しているので「今日からドルを止めます」というわけにはいきません。
以下はIMFが公表している世界の準備金です。赤のドルが減少し、一番下のゴールドが上昇しつつありますが、まだドル資産が多く残っています。(あくまでもIMF発表ですが)
米国の都合でドル資産の価値が擦り減る、資産が凍結される恐れがあり、ドル資産を手放したいと言っても、ドルの流入先は意外に限られています。
他の法定通貨はドルの下位互換のようなものです。
世界共通で中立的に価値を保つのはゴールドなどコモディティしかありませんが、現物は数に限りがありクリック一つで資産が切り替わるわけではありません。
また、BRICS側もドルを取引に使ってきたので「今日から脱ドル」なんてことをすれば、自分等にもダメージが伴います。
どこかの時点で急激に脱ドルが進む可能性はありますが、なるべく穏便に少しずつドルから離脱したいのです。
そして、冒頭でも紹介したとおりキャスリーン氏によると、これらのサウジアラビア発行の米ドル建て債券はサウジで保管されているため、米国の制裁の影響を受けません。
つまり、ロシア等のように米国の政治的都合でドル資産が凍結される恐れがないということです。
4,なぜ、中国の債券が20倍の需要があるのか?【閲覧注意】
中国という文字を見ただけで沸騰する人にとっては閲覧注意ですが、ゴールドのように中立的視点で世界を俯瞰しなければいけません。
ドルには裏付けが無いという人もいますが実際には違います。
米国がドル覇権を握ってきたるのは、圧倒的な経済力、強大な軍事力が背景にあったからです。
しかし、このどちらも揺らぎつつあるのが事実です。
というのも中国の技術力、軍事力が凄まじい勢いで上昇しており、米国と肩を並べるほどになっているからです。
メインメディアで中国のネガティブニュースだけ見ていると、今にも中国は技術も経済も崩壊寸前みたいなイメージがあると思いますが、実際はそうではありません。
全てのデータを乗せることは出来ませんが、一例をあげると中国貿易黒字は年1兆ドル(約150兆円)に迫る勢いです。
中国の輸出と輸入の差額は、今年に入ってからのペースで拡大が続けば、通年でほぼ1兆ドル(約154兆円)に達するとみられる。
先週発表されたデータによると、1月から10月までの10カ月間の物品貿易黒字は7850億ドルに及んだ。同時期としては過去最高で、前年同期から約16%増加している。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-11/SMS0S4T1UM0W00
記事では「輸出に依存している!」とありますが、世界が中国に依存しているとも言えます。
なぜ世界でこれほど中国の製品が購入されるのか?ですが、安かろう悪かろうだった商品の品質が著しく向上し、安くて高品質なものが増えているからです。
例えばスマホメーカーのシェアは中国製品が凄まじい勢いでシェアを伸ばしています。
スマホやPCガジェット類が好きな人であれば分かると思いますが、以前は
「安いけど、性能は品質は価格なり」
だったことが多かったですが、現在は「安いけど品質もかなり良い」というものが増えてます。
技術面に関しても既に米国と同等以上に進んでおり、先日は3つ折りスマホが販売され大きな話題になりました。
人類のほとんどが手にするであろうスマートフォンの2023年世界シェア
— Silver hand (@Anthony6355) August 25, 2024
1位Apple
2位サムスン(韓国)
あとはいずれも中国
残念ながら日本メーカー等の名前はとっくにない。 https://t.co/dBGajDz673 pic.twitter.com/AvkyLMotBg
そもそもiPhoneも中国で製造され、世界各国に出荷されています。一度中国からインドに製造拠点を移すような動きもありましたが、結局は中国に戻っています。
EVに関しても世界トップクラスの技術とシェアです。
https://x.com/ErikSolheim/status/1856212584002650289
BYDが新型プラグインハイブリッド車発表、航続距離2000キロ超え
中国最大の電気自動車(EV)メーカー、比亜迪(BYD)は28日、充電や燃料補給なしで2000キロ以上の走行が可能な新型プラグインハイブリッド車を発表した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-05-28/SE75ZLDWLU6800
あるアメリカ人のYouTubeはBYDの新モデルの予想航続距離が2100kmというのがを信じられず、中国で通訳とカメラマンを雇い、ヘッドライト、ワイパー、エアコンを常時使用する厳しい条件下で実際に走行テストを行いました。
その結果、1800km以上の航続距離を達成したと報告してます↓
またTeslaが自動運転のロボタクシーを公開し、話題になりましたが既に中国では全自動で運転するロボタクシーが一部で稼働してます。
ドローン技術に関しても世界トップクラスで、DJIという中国のドローンメーカーはドローン市場では、2024年時点で70%以上のシェアを誇るとされています。
深センでは一万機のドローンショーが開催され、これは世界最大規模でした。
Shenzhen 10000 drone Show. The largest scale in the world. pic.twitter.com/KD1QBd4wjE
— Sharing Travel (@TripInChina) September 27, 2024
以下はニューヨークと深センの地下鉄を比較した動画です。
中国では、お金は中国の人々に還元され、それがインフラに反映されます。
アメリカでは、納税者のお金が取り上げられ、戦争に使われています。
人々からお金を取り、彼らの生活をより良くする方法でそのお金を還元するリーダーを想像してみてください。アメリカ人ができることは、そのようなシナリオを想像することだけです。なぜなら、それが私たちには決して起こらないからです。
In China money is returned to the people of China and it is reflected in the infrastructure.
— Noctis Draven (@DravenNoctis) October 5, 2024
In America, taxpayer money is taken and used on war.
Imagine leaders that take money from it's people and give it back to the people in ways that better their lives. That's all… pic.twitter.com/Ndyk1HFi34
仮に中国に景気後退が訪れたとしても、これらの技術が失われるわけではありませんし、着実に米国と肩を並べています。
他にもありますが、私が押し付けるよりもご自身で調べる方が良いでしょう。
日本のYouTubeチャンネルは再生数稼ぎのために、中国叩きしかしてませんので、海外のYouTubeチャンネルを見るといいと思います。
https://www.youtube.com/results?search_query=China+City
また、軍事力に関してもトランプ次期大統領の新国防長官は、「国防総省が実施するあらゆる軍事演習で、米国は中国に負けている」と認めています。
「中国の極超音速ミサイルは20分で米空母を全て破壊できる」
https://Twitter.com/BRICSinfo/status/1856794064214970390
また、米軍がダントツで世界最強とされてきましたが、2021年8月にアフガニスタンから83億ドル(約1兆円)の装備や兵器を置いて撤退しています。ベトナム戦争、ソマリア内戦でも撤退してます。
https://Twitter.com/Terror_Alarm/status/1553577810794582016
もちろん、中国にも悪い面はありますし債務問題はありますし、景気は悪化しつつあるのは事実で完璧な国ではありません。
長年ネガティブな面だけを見ている人にとっては認めたくないかと思いますが、誰に対しても絶対的な中立を保つゴールドのように世界情勢、経済を見るべきです。
また、自国内をほったらかして、紛争地域に兵器を送り続け、従わなければ関税や資産の凍結などで脅してくる国より投資先と、サウジアラビアはどちらに投資したと思うでしょうか?
米国が国連でガザ停戦の呼びかけを拒否
中国がドル建て債券を発行したことで、サウジアラビアは米国、中国債券の2つの選択肢が出来るというわけです。
5,中国は米ドルをどうするのか?【重要】
しかし、中国が米ドル債券発行するということは、中国にドルが溜まっていくということです。
中国からしてみればドルを持っていても、インフレによって購買力が擦り減るので、あまり好ましくありません。
では、中国はドルをどうするのでしょうか?新興国であるグーロバルサウスから鉱物(金銀を含む)ドルで購入します。
米国債を売却し、金や銀など鉱物を大量に購入しています。
先日は中国とペルーに銀を含む鉱物を直接貿易ができる港を建設してます。
https://x.com/oriental_ghost/status/1850050324037517327
中国は米ドルや西側取引所を介して貴金属を輸入せず、南米から銀などの重要な鉱物直接輸入する仕組みを構築しているので、貴金属投資家でも話題になってます。
そして、新興国は中国にから得たドルはどうするのか?
多くの新興国はIMFなどから経済援助の名目で、多額の債務を借り入れているわけですが、中国から得たドルを債務の返済に利用されます。
そしてサウジアラビアは使い切れない大量のドルを抱えているので、上記で説明したような、インフラ等中国から安価に購入します。
それを分かりやすくしてくれた図が以下のものです。
https://indi.ca/how-china-starts-printing-usd/
これらの新興国経済力が弱い為に、債務に高い金利が設定されます。
経済発展の為にお金を借り入れるのに、金利の支払い負担が高すぎるので、最低限のインフラと金利の支払いにしか資金が回らずいつまでも経済発展ができないということです。
よく「中国が債務の罠に陥れる」というような批判がありますが、むしろIMFの融資条件や高金利の商業融資がパキスタン等に新興国とって、経済発展を阻む要因であるというキャスリーン氏は批判してます。
https://x.com/Kathleen_Tyson_/status/1835548560793694297
もともと国の財政が圧迫されているから、IMFなどに借り入れるのですが高金利条件によって、更に国の財政が圧迫されます。
成長のための資金が制限され債務の返済が最優先されるため、持続可能な発展が難しくなるという懸念を表明しています。
しかし、中国が低金利で米ドルを調達し、そのドルで債務負担の多い新興国から鉱物などの資源を購入。
新興国は得たドルで高金利の債務を速く返済することができ、経済発展も速く可能になるということです。
【結論】すぐにドルが崩壊するわけではないが、米国覇権は揺らぎつつある。
ここまで解説したのですが、「米ドル覇権」を終わらせるのではなく、米国による米ドルを主導権が揺らぎつつあると言ったほうが正確です。
この戦略は米ドル自体を終わらせるのではなく、あくまでも流通させるドルというツールの主導権を中国が操作するということです。
ただし、現時点では中国のドル建て債券が需要があるからと言って、すぐに米国覇権が終了するわけではありません。
需要があると言っても20億ドルだけですし、現時点ではテスト的な面、米国側を揺さぶる面が強いという意見が多数です。
物理的な金(ゴールド)の米ドル価格は構造的に上昇しています。
米ドル建ての中国ソブリン債はその始まりに過ぎません。中国の人民元建てソブリン債の国際的な発行は現在のところ十分に大きくありません。
中国の戦略は、米国債(USTs)の世界的な保有量を減少させるために三つのアプローチを取っています:
・物理的な金(SGEIおよびBRICS+の物理的金取引所)
・米ドル建ての中国ソブリン債
・中国人民元建てのソブリン債
中国はこれらの三種類の担保を使用して、BRICS+の仲間たちが米国債から脱却する手助けをしています。
トランプ氏は中国に対して高い関税をかけると、脅していますがこれに対する警告という意見もあります。
いずれにせよ、米国一強が揺らぎつつあるのは間違いないです。
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→【2024.11】6年連続で銀は供給不足!今後も供給不足は続く?ETFのリスクとは?
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